- BATとは何か知りたい
- BATがどう進化したのか知りたい
- トリーツを使ったトレーニングで反応性を改善できなかった
BAT(Behavior Adjustment Training)とは、グリシャ・スチュワートが開発した、犬に選択肢を提供し、適応的な行動を学習できるようにするトレーニングのことです。
主に、恐怖・攻撃・過剰な興奮などに有効的とされています。
BATは常に最新の情報にアップデートし、1.0から2.0、そして現在の3.0へと進化しています。

BATでは、トリーツを積極的に使用しません。
その代わりに、機能的強化子(functional reinforcer)を優先的に使用します。
機能性強化子とは、(問題)行動を強化している刺激のことです。
つまり、犬自身が「純粋に望んでいるもの」と言えます。
少し難しいので、例を挙げて説明します。
例題
ロッキーは、他犬を見ると激しく吠えます。
相手の犬が遠ざかっていくと、ロッキーは吠えるのをやめて、普段通りの状態に戻ります。
これをABC分析にあてはめると、以下のようになります。

このケースでは、ロッキーは他犬と離れたいから吠えていると推測できます。
つまり、機能性強化子は「他犬と離れること」になります。
BATでは、動物が本来望む結果を得るために、問題行動をしなくても、他の行動で同様に望む結果(機能性強化子)を得られるようにサポートします。
▼ABC分析についての詳細はコチラ

2010年頃に、初めてBATが誕生しました。
キッカケは、グリシャの愛犬『ピーナッツ』が子犬のころから、深刻な反応性に悩んでいたことから始まります。
知らない人が近づくと恐怖から激しく吠えてしまい、他犬に対しても同様に恐怖心で、遠くに見かけただけで吠えてしまう状態だったといいます。
当初ピーナッツの反応性を改善するために、トリーツを使う従来のトレーニングを行っていましたが、思うように結果が出ませんでした。
そこで、グリシャは「BAT」を開発しました。
結果、ピーナッツの行動には劇的な改善が見られました。
最初は、だれにでも吠えていたピーナッツですが、他人に落ち着いて接することができるようになり、最終的にはセラピードッグを務められるほどに成長したのです。
また、これまで他犬を怖がり吠えていたのが、最終的に一緒に遊べるようになるまでに変化しました。
・人が犬を誘導して、トリガー(他犬や人)へ近づいたり、離れたりするタイミングをリードする。
・犬が望ましい行動をした瞬間にクリッカーを鳴らし、犬をトリガー(他犬や人)から遠ざけてトリーツを提供する。
※これは、負の強化(R-)と正の強化(R+)に基づいています。
・トレーニングセッションを3段階のステージに分けるようマニュアル化されていた。
グリシャは愛犬ピーナッツとの経験を活かし、犬自身が「安心感」と「達成感」を得られることを重視しています。
犬自身が環境をコントロールして成功体験を積むことで、自信と信頼関係を築くことが、BATのコアになっています。

BAT2.0は、2014年頃に大幅にアップデートされました。
・犬が自由に歩くことを尊重し、トリガー(他犬や人)に直接近づける誘導はしないように変更。
・トリーツは基本的には使用せず、機能性強化子を重視するように変更。
・リードスキルの体系化がされた。
※BAT1.0ではリードスキルにあまり重点が置かれておらず、犬に負担をかけてしまうことがあった。
・3段階ステージをやめて、臨機応変に調整できるフローチャートに変更。

BAT2.0は、犬の自主性をより重視し、実際の場面において実践しやすいように改善されました。
このアップデートにより、多くの現場でBATが使われることになりました。

BAT3.0は、2022年頃に新要素が追加されました。
・SAFE(Secure Attachment Family Education)フレームワークを開発。
※愛着関係(アタッチメント)、つまり「この人と一緒にいれば自分は守られている」と心から信頼できる関係性を強化できるように丁寧に対応すること。
・コーレギュレーションを重視する対応の強化。
※ストレス下にある犬に対して、飼い主が冷静かつ安心できる態度で接することで、相手の神経系の興奮を落ち着かせるプロセスです。
・新道具「リーシュ・ビレイ(Leash Belay)の登場。
※力が強い大型犬などに対応するために、リードにかかる圧が分散されるような道具が新しく開発されました。
BAT3.0では関係性(愛着)、感情の配慮を強化しています。
また、トラウマ理論、愛着理論、ポリヴェーガル理論などを積極的に取り入れることで、目に見える行動だけでなく、心のケアも重視する包括的な方法に進化しました。
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